番組構成師 [ izumatsu ] の部屋


テレビ業界の人たちは夜に仕事をするのが好き。特に編集という仕事をするのは、必ずと言っていいほど夜になる。


ぼくは夜がダメ。遠い昔、受験生の時代から日付を超えて起きていることはマレだった。そのかわり、朝はいくら早くてもOK。でも、根っからの朝方というわけでもない。

会社勤めを始めた新入社員のころ、零時近くまで働き、それから夕食という名の一杯を会社近くの飲み屋でやって、再び会社に舞い戻って丑三つ時まで仕事をするという日々が続いたことがあった。

残業残業、また残業の日々。残業時間が200時間を超える月が二ヶ月続いた。すると総務部長に呼びつけられ、「お前はなんでこんなに残業が多いんだ。え! 真剣に仕事をやってるのか!」と怒鳴られたっけ。「残業しなければこなせない仕事なんか、ないだろうが!」だと。

めっちゃめちゃ忙しく、日曜日も祝日も出社し、会社の机の上で寝たりする日が続いていてストレス満杯だったぼくは総務部長のその言葉にプッチン。「わかりました。きょうから残業はやめます」。

その日から、その言葉を守った。

就業時間が終わると、はい、サヨナラ。まだ陽のあるうちに会社を出ることのなんと快いことか。帰りには銀座通りのレコード屋(もんた&ブラザーズの『ダンシング・オールナイト』がガンガンかかっていたっけ)に寄り、よさげなLPを買って帰り、部屋でワインを飲みながら聴く。あぁ、これぞ独身貴族というものだ。

ぼくが担当していた仕事は、あっと言う間に滞った。そりゃそうだ。200時間の残業をこなしてようやく滑り込みセーフというスケジュールの仕事の連発だったのだから。当時、調査会社に勤務していたぼくが担当していたのは、調査データを元にクライアントへ提出する報告書をまとめること。今のようにパソコンもなければ、ワープロもまだ一般化してないころ。報告書は、掲載するグラフや表も含めてすべてが手書き。レイアウトを決め、方眼紙にグラフを書き、その脇にコメントを直接書いていく。他人様にお見せできない字の持ち主は、字のきれいなバイトがそばについていて、原稿を書いたはしから清書していく・・・・今、思い返すと、よくあんなことをやってたなぁとため息が出る。

そんな仕事のやり方だから、どんなに急いでも物理的に時間がかかる。それを、仕事の内容を考慮せず、残業時間という尺度だけでヒトを判断・評価しようとした会社側には落胆した。と言うより、あぁ、それが会社という組織のあり方なのねと思ったっけ。

就業時間が終わると、すたこらさっさと帰る日々が続いた。仕事はたまって進まない。知ったことか。会社側がおっしゃる通りに勤務態度を改めたのだから、喜ばれこそすれ、とやかく言われる筋合いはない。

しばらくすると、また総務部長に呼ばれた。今度は「お前は最近、きちんと仕事をこなしていないらしいじゃないか。どうしてなんだ?」とのたまう。あんたが残業するなと言ったんだろうが!(とは言わなかったけど)。どうやら、ぼくとアルバイトたちが担当している仕事をクライアントから受注し、ぼくらが作る報告書を納品する営業担当のおじさんが「あいつに残業をさせてくれ」と総務へ掛け合ったらしい。受注の時から、営業のおじさんにはこの仕事が通常勤務ではできっこない分量だということは分かっているのだった。

それもまた妙な話だと思ったっけ。

「残業や~んぴ」を決めた日から一ヶ月ほどたって、ぼくはまた残業の日々に戻った。メシも食わず、酒だけ飲んで、会社に戻り、酒気帯び勤務をする日々に。総務部長から「残業してもOKよ」というお墨付きをもらった記憶はない。なし崩し的に、はたまた馴れ合い的に、再び夜の仕事がお友だちとなった。

♪ Hello darkness, my old friend
♪ I've come to talk with you again

てな感じだったなぁ。


今、テレビ業界で働く人たちも、別に深夜に働くのが好きなワケじゃないだろう。朝型・夜型といった、自分の体に適した時間帯はあるだろうけど、とにかく皆さん、えらく忙しいのだ。外部の人間であるぼくが見ても、ひとりでこなせる仕事以上の仕事を抱えている連中ばかりだ。

たとえば、編集マンは30分、1時間の番組を、村の鍛冶屋じゃないけれど「息をもつかず」という勢いで担当している。どうしても一本あたりの編集日数は限られる。ひどいスケジュールになると、1時間番組をゼロから三日間で仕上げろというオーダーがきたりする。ぼくもそんな仕事を何本かやったことがあるけれど、三日間という日数では、まる二晩完徹して一度つなぎ、一度手直しして・・・それで目一杯。

「こんなもの、見てもらっていいのかな?」という段階の番組がそのままオンエアされるのは、正直、つらいし、申し訳ない。それは、視聴者にも、取材対象者にも、だ。

キー局や準キー局はいざ知らず、ローカル局は編集するための機材の台数も限られる。昼下がりから夕方にかけてはその日のニュースの編集が優先するので、それ以外の編集は機材が空いている夜にやるということになる。ぼくも時に立ち会うけれど、零時を回って2時3時4時まで編集に携わる日が続くのは異常だと思う。But、この業界では、ち~とも異常じゃないのよね。


きょうは日曜日。22時を回ったところ。ぼくがぬくぬくとコタツに入り、『ロード・オブ・ザ・リング』を見つつ、この駄文を書いているこの時間にも、テレビ業界に限らず、仕事にいそしんでいる人たちが数多くいる。ぼくらって、そんな人たちに支えられているんだなぁって、ときどき、しみじみ、感じるな。

みんな、がんばれ。



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