番組構成師 [ izumatsu ] の部屋


いつも買い物をするスーパー。
棚の前で話をしている親子らしき女性ふたり。

50代前半とおぼしき母が、

「きょうも、一個もないやん」

20代半ばのように思われる娘が、

「ほんなこて~。信じられんね」

で、ふたりの会話。

母「みんな真面目に毎日二個ずつ食べよんしゃるっちゃろね」

娘「そうやろか。あれ、ほんとに効くと?」

母「テレビで言いよったけん、効くっちゃなかとね」

娘「どうやろ。だいたい、納豆食べるくらいで痩せるんやったら、あたし、とっくにスマートになっちょうばい」

母「そやね」

娘「みんな、ちょっとおかしいっちゃないと」


そうなんですよ、娘さん。あなたがおっしゃる通り、ぼくら視聴者、みんなおかしいんです。

行きつけのスーパーには、きのうもきょうも、納豆が一個もない。見事に売り切れ。いつもは数種類の納豆が置かれている棚はからっぽで、「○○(TV番組名)で紹介されたため、納豆が今、品薄となっています。皆様には大変ご迷惑をおかけします」旨を記した紙が張ってある。

テレビの情報番組で「ダイエットに効く」と紹介されてだけで、このありさま。番組の関係者はさぞかし喜んでいることだろう。紹介した商品の売れ行きを飛躍的にアップさせたということは、番組にそれだけの影響力があると考えるだろうから。

それにしても、視聴者はすぐ踊る。それが、新しく確実な情報を意識的に自ら探し、その上で自ら「踊って」いるのか、流れ出る未確認情報に無自覚に接することで情報源に「踊らされて」いるのかは知らないが、ちょっと踊り過ぎ。

今回の出来事はその対象が「納豆」というごく身近なものだし、納豆は元々体にいいと言われているので、「痩せる」という情報に接した人が「じゃ、やってみよう」と実行に移しやすい面はある。

でも、やっぱり踊り過ぎだと思う。

ぼくは当該の番組を見てない。漏れ聞くに「納豆を、朝と夜、一個ずつ食べるとみるみる痩せる」的な内容だったとか。ここ20年ほど、ぼくは毎晩、納豆を食べているけど、別に痩せない。上にあげた娘さんの言葉じゃないが、納豆で痩せるならぼくはとっくにスマートになっていると思うのだけど。

「一個じゃ効果はないんですよ。二個じゃないとダメなのよ」

なんてこたぁ、ないだろう。
どう考えたって“いいかげん”。この言葉が悪ければ“誇大表現”だ。





当該の番組はその情報の確かさを疑問視されている。幻泉館主人さんのところで知ったのだけど、その検証の不正確さを指摘する本も出版されていた。

番組をはかる“ものさし”が“視聴率”しかない現状では、テレビ局はその数字を元に営業をするしかないし、数字を上げるためには視聴者にまんべんなく見てもらう必要をせまられる。

“ドッキリ”させないと視聴者はこっちを見てくれないし、“ウッソぉ、ホントぉ?”レベルの綱渡りをしないと「量」を稼げない。「量」を稼げない番組はあっさり打ち切られる。打ち切られた番組のプロデューサーやディレクターなどは、社内を胸張って歩けない。それが続くと配置換えか、窓際へ。キー局の制作現場は精神的にもギリギリだろうな。

だから、「おもしろければいいのさ」ってか? そりゃぁないだろう。そう言っていいのは視聴者で、番組を作る側はそう思っちゃまずいんじゃないかな。「視聴率戦争の現場を知らないお前は甘い」って言われるだろうけどさ。





きのう、ある本を読んでたら、こんな一文が。

「無料放送(民間放送のこと)は番組の質の評価は反映されず、むしろ誰でも漫然と長時間見られる内容の薄い番組の視聴率が高くなる」

ムムム・・・制作現場も、視聴者も、そろってバカにされてるような内容だけど、これが事実なんだろなぁ。

こんな一文も。

「(真の競争原理が働いていない)現在の日本のテレビ番組は、NHK・民放を問わず、国際的な水準に達していない」

「日本では、民放の番組の質が低いため、NHKの番組は相対的に高く評価されているが、世界的にみると、NHKの番組は欧米にまったく輸出できない」

日本の番組を海外に出すことが難しいのは「日本語」という言葉の問題じゃない。アニメやある種の料理番組などは世界の多くの国で引く手あまただそうだ。結局、番組の「質」が問題なんだな。

この文を書いた人は元NHKの職員で、現在は大学の先生だ。制作の現場を体験した人かどうかは知らないが、テレビの世界にいた人にこうまで言われても「そんなことはない」と言い切れないのが情けない。





あいまいな情報に踊らないようにしないとなぁ。

でも、上にあげた母娘の会話を後ろで聞いてて面白いなぁと思ったのは、ダイエットにより興味を持っていそうな娘さんの方が、番組の情報に懐疑的だったこと。

「納豆食べるくらいで痩せるんやったら、あたし、とっくにスマートになっちょうばい」

おっしゃる通りでございます。
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