番組構成師 [ izumatsu ] の部屋


炭坑街はとてもいいところだったけれど、悲しいような、辛いような想い出もある。その想い出は、今のぼくの立ち位置に強く影響を与えているような気がずっとしてる。

ぼくの家にはお袋と姉とぼく、そして生活を共にしていた男性とその娘の5人が暮らしていた。男性の娘は姉とぼくとの間の年齢だったので、そのころ、ぼくには姉がふたりいたことになる。

ぼくが幼稚園のころ、男性は労働運動に首をつっこんでいて、板張りの台所に置いてあったテーブルのまわりには、炭坑で働く人たちや、近くの大企業に勤務する人たちがいつもたむろしていた。

そのテーブルは鉄道の枕木で作られた、黒光りするどっしりとした大きなもので、ぼくや隣の家の同い年の赤ん坊などがその上に座り、ソーメンを手づかみで食べていたりしたものだ。

そのテーブルの周りでは、いろんなことが起こった。

ある夜、一緒に暮らす男性の元へ、若い男が怒鳴り込んできた。何度もみたことがあるあんちゃんで、炭坑夫だったような記憶があるが、なんせ幼稚園に入るか入らないかのころなので定かでない。

が、とにかくものすごい勢いで飛び込んできたその男は、手に包丁を握っていた。

同居している男性は取り乱すことなく、「まぁ、落ち着け」みたいなことを言っていた気がするが、包丁の光が恐かったぼくはお袋の胸にすがっていた。お袋はぼくを抱き締めながら「だいじょうぶよ、だいじょうぶ」と言っていたような気がするが、これも定かではない。

幼いぼくは、台所に響く男の罵声と、それに冷静に答える男性の声を聞きながら隣の部屋で眠ってしまった。

翌朝、男性は腕に包帯を巻いていた。その白さに、前夜の恐怖がよみがえった。

男性の怪我は大したことなかったし、警察もやってくることはなかった。そのあんちゃんはその後も顔を見せていたから、もめ事はあとを引かなかったのだろう。

でも、なぜそのあんちゃんは包丁片手に飛び込んできたのか? どうやら労働運動のやり方、あり方でぎくしゃくしたあげくの出来事だったらしい。あんちゃんは勤め先に首を切られそうな状態だったのだと、中学に入るころに聞いた。


この出来事のもう少しあと、ぼくが小学生のころ。台所の板張りの上で、見慣れたおじさんがうぉんうぉん泣いていた。首から腕を吊っていたような気がするが、記憶違いかもしれない。でも、腕や顔に傷があったのは確かだ。

おじさんは、なぜ声をあげて泣いていたのか? 子供の目から見たら、もう十二分に「いいおとな」だったおじさんが?

以下は、のちに聞いた話。すべて真実かどうかはわからない。

おじさんは某大企業に勤める労働者で、人員整理をしようとする会社側と対峙している労働組合の一員だった。会社側は労働者間のつながりを壊すべく、組合員の一部を会社側に取り込もうと画策する。

アメを配られ、会社側へと転向したある元組合員が、運動破りの実力行使に出た。組合の中心人物のひとりだったおじさんを車ではねたのだ。

おじさんははねられ、ケガをした。でも、ぼくの家の板張りで声をあげて泣いていたのは、傷がうずいたからじゃない。同志だと思っていた人間が、手のひらを返したように会社におもねり、信じられない行動に出た。その悔しさ、虚しさに、声をあげて泣いたのだ。


どこまでが真実なのやら、聞いた話なのでわからない。

でも、あんちゃんが包丁片手に怒鳴り込んできたのは事実だし、おじさんが声をあげて泣いていたのも事実だ。そしてそのどちらも、会社という組織に追い詰められた結果の、感情の爆発だった。


学生時代、ぼくは「雇用される」ということに恐怖を感じていた。なぜ会社という組織に身をゆだねてしまうような働き方ができるのか、なぜ終身雇用という潜在的に人間を侮蔑しているシステムに身をおけるのか、まったく理解ができなかった。

そんな、ぼくがいだいた雇用への恐怖は、あんちゃんが持つ包丁の光や、板張りに座り込んだおじさんの泣き声にその根源があるような気がする。


もう四半世紀以上前。ぼくは友人に誘われ、月に一回の勉強会に顔を出していた。それはテーマにひかれたから。そのテーマは「働くことの意味」。ま、勉強会の実際は、喫茶店に集まってお茶をしながら思い思いにだべるだけだったのだけど、ある企業に就職したぼくは、毎月振り込まれる「給料」なるものに違和感を感じ続けていた。

どうして毎月決まった日になると、ぼくの銀行の口座には決まった金額が入金されるのだろう? 身を粉にして働いても、えへらえへらと過ごしていても、会社はぼくに金をくれるのだ。

この金は、いったい、なんなのだろう?


その違和感は、今も消えない。

働くって、なんなのだろう?
どうしてみんな、平気な顔をして、莫大な金額を受け取ることができるのだろう?

いつの間にか、「首切り」は「リストラ」と言葉を変えた。
どうしてこんな言葉を、みんな平気で使うことができるのだろう?

炭坑街のガキがいだいた疑問は、今もまったく解消されてはいない。



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働く理由なんて、突き詰めれば、単純に食べるため、、、じゃ、いけんのかな? 
難しく考えれば、いろんな屁理屈はつけられるやろけど。 昔、飢餓賃金なんて言葉が私のまわりにもあったけど、今時は、死語にちかくなってないかな? あんさんの言う莫大な金額、、、そんな奴らもいるんやろうけど、、、周りには、おらんね!

枕木のテーブル、退職金でも入ったら、再現しようかね! いまなら、莫大な費用がかかる代物ですぜ!

2006.11.11 23:46 URL | 腹イタノろくです #79D/WHSg [ 編集 ]

実は「労働運動」も全て直接に見聞きしたことはない平和ボケの生ぬるい少年時代こそばゆい学生時代を送っていたものにとっては・・半分羨ましいくらいの体験ですね。
いつまでたっても机上の空論から抜けられない私です。現実の金は必要だというのにです。

2006.11.12 01:09 URL | 赤い鳥幹事 #79D/WHSg [ 編集 ]

★腹イタノろくですさん

>働く理由なんて、突き詰めれば、単純に食べるため、、、じゃ、いけんのかな? 

いやいや、善し悪しってこっちゃなかとですばい。
食べられてるから余計なことを考えるとも言えますばい。

>難しく考えれば、いろんな屁理屈はつけられるやろけど。 昔、飢餓賃金なんて言葉が私のまわりにもあったけど、今時は、死語にちかくなってないかな?

飢餓賃金ちゃなんね?
そりゃ、遠い昔に死語とちゃう?

>あんさんの言う莫大な金額、、、そんな奴らもいるんやろうけど、、、周りには、おらんね!

うんにゃ、こりゃワタクシがフレッシュマンとして某企業に就職したときの賃金のことですけん。
今の若い衆は、倍以上はもらっとると思うよ。

>枕木のテーブル、退職金でも入ったら、再現しようかね! いまなら、莫大な費用がかかる代物ですぜ!

あれはどこに行ったやらねぇ。
よかテーブルでしたばい。

ところで、腹イタは治ったんかな?


2006.11.14 20:50 URL | izumatsu #79D/WHSg [ 編集 ]

★赤い鳥幹事さん

>実は「労働運動」も全て直接に見聞きしたことはない平和ボケの生ぬるい少年時代こそばゆい学生時代を送っていたものにとっては・・半分羨ましいくらいの体験ですね。

今となってみればですね~。
当時、そのさなかにいた人は大変だったんでしょうけど。

>いつまでたっても机上の空論から抜けられない私です。現実の金は必要だというのにです。

金は欲しいけど、稼ぐ才能ってナイもんですね。
お袋がよく言ってます。
「うちの家系に金を稼げる人間はだ~れもおらん」って。
空論で食える人もいたりするから、コワいです。

2006.11.14 20:52 URL | izumatsu #79D/WHSg [ 編集 ]













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