番組構成師 [ izumatsu ] の部屋

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*取材対象者に叱られる。

もうかなり前のことですが、取材が始まる前、取材対象者に呼ばれ、局へ出かけたことがあります。

その席にはプロデューサーとディレクター、そして取材対象者とその後見人的な人がいました。そしてその席で、ぼくは取材対象者にこう叱られます。

「番組にすることが決まってるのに、まだ台本は出来ないのか。構成担当は何をしとるんだ!」

その言葉を聞いたときのぼくの反応は、「??」。

言われている言葉の意味が理解できなかったのです。

基本的に、ドキュメンタリーに台本はありません。「こんな風な流れになるかなぁ」という、ディレクターたち取材最前線のスタッフが肌で感じた雰囲気を元に、希望的観測の想定はできますが、『台本』はありません。

“このシーンでは、主人公に、あの場所で、こういう状況の中、こんな話をしてもらう”なんて台本があるドキュメンタリーなど、ありません。

それはドラマの世界です。

でも、この取材対象者の方は、取材されるということは、イコール「演じること」だと思われていたのです。それも、こう言っては失礼かつ申し訳ないのですが、自分がより良く見えるように撮られることを念頭に、「台本はまだか」と言われていたようなのです。

「ドキュメンタリーに台本はありません。ありのままの姿を撮らしていただき、取材が進むにつれて番組の形が徐々に固まっていくのです」

ディレクターが仕事の流れを懇切丁寧に説明します。

ぼくも同様に“ありのまま”でいてもらうことの大切さを話します。“ありのまま”が積み重なることで、一個人の生き方や心情が自然に浮かび上がる。そこには『台本』など必要ないのだと。

それでも、この取材対象者の方は、ぼくらの話す内容を理解してはいただいたものの、いつまでも首をひねっておいででした。


*カメラに慣れて、取材スタート。

さて、取材が始まりました。

“ありのままを撮る”ことに同意していただいたものの、いざ取材となるとその“ありのまま”が撮れません。

それはそうです。

ただ話を聞かれるだけでも緊張するのに、小型バズーカ砲のような形のカメラに狙われ、頭上にはモコモコした毛に包まれたマイクがぶら下がっているのです。

そんな中、“ありのまま”に振る舞えるのは希有な人でしょう。

テレビの取材は、その形や方法からして相手にバイアスを、圧力をかけているのです。本音を聞き取ることが出来るまでに時間がかかる一番の原因は、テレビに不可欠なカメラとマイクの圧力。

テレビ取材の辛いところです。

この取材対象者の場合、そのカメラ&マイクの圧力にプラスして、自分が思っているように撮ってもらおうという思いがしばらくの間は頭から離れなかったようです。

ぼくは取材現場には行きませんでしたが、のちに見た取材テープの中で、取材対象者は撮られる位置を自らセッティングし、話す内容を準備し、稽古をして撮影にのぞまれていました。

こうした、言わば準備された映像と音声は、番組には使えません。撮るだけムダなのです。それがわかっていながら、ベテランのカメラマンは根気強く撮り続けていました。

撮り続けることで、カメラに慣れ、マイクに慣れ、取材陣の存在に慣れてもらう。そしてようやく“ありのまま”が顔を出す。

それがカメラマンの狙いでした。

数日間をかけて撮った映像と音、それは全部使えない。そんな取材が続きました。それでもカメラマンはカメラを回し続けたのです。

“ありのまま”が撮れるようになるまで。

ぼくは、増えていく「使えない映像」を見ながら、カメラマンの粘りにほとほと感心しました。



テレビは映像と音が命です。
テープに収められたそれらのモノ、それがすべてです。

ぼくがそのことに気づき、可能な限り取材テープの隅から隅まで映像を見、音を聞くようになったのは、このカメラマンの粘りに出遭ったからです。

貴重なことを教えてくれたカメラマン。
そろそろ定年だと聞きました。



「台本はまだか!」

取材対象者にそう一括された番組は、主人公の自然な話と表情が印象的な物語としてまとまりました。

ムダになるとわかっていながら取材を続けたディレクター、カメラマン、そして音声さんたちの頑張りのたまものです。


粘り続けるカメラマンと音声さん、そして現場を鼓舞し引っ張るディレクターは、今も確実にいる。

熱のこもった取材テープを見るたびに、ぼくはそう感じています。

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