番組構成師 [ izumatsu ] の部屋


芸能事務所をやっている友人の事務所へ打合せに行く。

彼の事務所は今回の地震でも揺れの強かった地域にある。地震当日の夜、電話で話したところによると、事務所の彼の部屋は「もう、しっちゃんがっちゃん!」になったとか。

「しっちゃんがっちゃん」---どんなかなぁ?

その部屋に入ると、置いてあったはずのソファがない。書棚の上に置いていた酒やウィスキーの瓶が落ちて割れ、アルコールまみれになってしまったと言う。床には多数の本が壁に立てかけてある。アルコールに濡れてしまった資料たち。触ってみると、まだペタペタ。拭いて、乾かして、大変だ、こりゃ。

彼の部屋の棚という棚はすべて倒れた。当日、彼はその部屋にいなかったのでよかったが、もしデスクに座っていたら、今、ここにはいないかもしれない。

「部屋に入ったら、これが机の上にあったっちゃん。なしてかね?」

そう不思議がるのは、大きなカラーボックス。彼のデスクからかなり離れた場所にあるのに、地震後はデスクの、それもパソコンの上にデンと乗っかっていたという。揺れて倒れたというより、ぶっ飛んできたと言うべきか。

「あれも全部、落ちたんよ」

彼の視線の先には、真新しい神棚が。お供えをするための道具はもちろん、神棚本体も落ちて微塵に壊れてしまった。すべて新しいものをそろえ、お祀りしたばかりだという。今度は落ちないように、壁にチェーンでしっかりと留めてある。

「こうして見るとありがたいね。神棚のおかげで誰もケガせんですんだと思うよ」

そう、しみじみと口にする彼の横顔を、ぼくはちょっと驚いて見つめた。

ぼくは信心する心がまったくない。自宅に神棚も仏壇もなければ、墓参りをしたこともない。第一、先祖の墓がどこにあるかも知らない。親戚づきあいもないに等しい。母は自分が入る墓を自分で用意している。ぼくが死んだときは、きっとそこに間借りをすることになるだろう。拝んでくれる人がいればそれでよし。いなければ、無縁仏になってもそれでよし。その程度の不信心者なのだ。

そんなぼくにしてみれば、地震のあと、真っ先に神棚を新たにし、思いを込めて見上げる彼が少し驚きだった。でも、彼らしいとも思った。

彼とはほとんど同い年。ぼくが今の仕事を始めたのと、彼が芸能事務所を開いたのも同じころ。共通の仕事はほとんどないものの、がんばれがんばれオレもがんばる、と思って今までやってきた。そして、彼の芸能事務所は、福岡の中心部に3階建てのビルをまるまる借りあげるほどに大きくなった。

芸能事務所という、社員も、練習生も、タレントも数多くいる組織をあずかりまとめる。そんなこと、ぼくにはとてもできない。だが、彼にはそれができた。その秘密を、神棚を見つめる彼の言葉に知ったような気がする。

たくさんの人の心をひとつにする。そのためには、きめ細やかな心配りが必要だろう。それを彼はずっと、絶えることなくやってきた。神棚に対する彼の言葉には、その心の細やかさがあらわれている。


神棚には、生き生きとした榊の枝が捧げられていた。毎日、取り替えるのだという。

これからも、がんばれ、がんばれ、がんばれ。



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