番組構成師 [ izumatsu ] の部屋

♪今日のBGM=Dave Mason & Jim Capaldi
                    『Live - The 40,000 Headmen Tour』


買い物に行く。

『袋につめ放題! 200円!』

ポップが踊っている。

小さなサツマイモ、里いも、ニンジンの三種類。
備えてある袋に詰め込めるだけ詰め込んで、200円。安い、ひじょ~に。

奥さまたちが、むらがっている。
用意されているビニール袋がちぎれんばかりに押し込む奥さま方。
まなじり、決してる。

割り入っていく勇気がない。

ぼくは、かなりな小心者。

ひとり暮らしの学生時代から、買い物は慣れている。
そのはずだけど、今でもどきどき、緊張する。
買い物がすんで家に戻ると、ほぉ~っと安堵のため息が出る。

これは遺伝だ。
かなり前のことだけど、母がこんなことを言っていた。

「お魚屋さんで、これくださいって言えるまで、何日も、何ヶ月も、何年もかかったよ」

朝鮮半島で生まれた母は、女学校に入学するため、ひとりで九州へやってきた。
そして、戦争が始まった。

10代半ばからのひとり暮らし、戦争も体験した。
お嬢さん育ちではない、それなりに苦労している人間のはず。
なのに、魚屋で「この鰯、ください」と、いつまでも言えなかった。

ちゃんと買い物ができるようになったのは、結婚し、旦那に三度三度のご飯を作らねばならない状態に追い込まれてからのこと。

その話を聞いた時は、「あほじゃなかろか」と思った。
けれど、ぼくもやっぱり、買い物はヘタ。

今は昔の魚屋のようにごろごろ魚が並んでいるんではなく、パックになっているから、いちいち「この鯵、ください」なんてことを言わずにすむ。

しかし、内臓を出したり、二枚に下ろしたりは店員に頼む。
自分でできなくはないけれど、本職に頼んだ方がきれいだし、何より手が省ける。

お願いする。そのひと言を発するのが、なかなか難しい。
値頃な鯵一匹を眺めつつ、逡巡する。

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今日の昼、高校時代の友人が訪ねてきた。

Tは、中学の教師。今日は大学の教職課程に特別講師として呼ばれ、中学教育の現場について300人の学生の前で語ってきたという。

昔の彼を知っているぼくには、ちょっとした驚き。
Tは小心者だった。

高校1年の時の同級生。だが、彼は中学浪人をしているのでひとつ年上。
さらに、大学へ入るまでに3年間、足踏みをした。
高校、大学とストレートで入学した中学の同級生が卒業する年に、Tは大学生となったわけ。

Tは東京で2年間、浪人をした。下宿は、ぼくのアパートのすぐそば。
農業をやっていた彼の家からは、米が送ってきた。
息子をよろしく頼むという、親の切ない願いを感じた。

浪人3年目、東京で2年目の志望校の受験日。
ぼくは彼に弁当を作ってやった。
どんな弁当だったか忘れたけど、とにかく合格して欲しい。そう思って作った。

試験を終え、Tがぼくの下宿にやってきた。
弁当はそのまま。箸をつけていなかった。

どうして食べなかったのかと聞くと、

「箸がついとらんやったけん・・」

ばっかやろぉ! 箸がなかくらい、なんやぁ!
となりのヤツから借りるとか、試験官に頼むとか、できるやろが!
手づかみだって、食えるやないか。小心者ぉ!

お前、腹減ったまま、試験、受けたんか?!

「あぁ・・」

八の字眉を一層下げ、申し訳なげにうなずくTに、ぼくは無性に腹が立った。

箸を入れ忘れたのは、ぼくだけど。

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Tは、志望校へ入れなかった。

彼は、他の大学の夜間部へ進んだ。
そして、故郷で中学校の教師となった。

高校の頃から、中学の教師になると言っていた。
初志を貫徹したわけだ。

Tが新任の教師として教壇に立ち始めた頃、ぼくは会社を辞め、プー太郎になった。
なにをしたいのか、わからなかった。

その年の夏、帰省した時、Tの家で飲んだ。
彼は、新任にもかかわらず、生徒の生活指導担当になっていた。

中学校は荒れ放題。生徒の心はすさんでいる。どうすれば生徒に近づけるのか?

Tは、悩んでいた。
ぼくは、きちんと地に足がついているTを少し尊敬している自分に気づいた。

それからずっと、彼は社会科を教えつつ、生活指導担当として、中学生と格闘し続けてきた。

今日、家に来たTは、豊富な経験を持ち、生徒のことをまず考える、そんな教師になっていた。

人の良さげな八の字眉は、あの時のまま、変わらないけれど、

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「この鯵、二枚に下ろしてください」

そのひと言が言えなくて、今日の夕餉はサバフグの煮付けに。
おいしかったけど、ちょっと反省。

明日は、しっかり、お願いしよう。



番組構成師の部屋

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おお、それはもしかしてTちゃん?
元気なんですね。
きっとああいう人がいい先生になるんだと思います。
いやあ、懐かしかぁ。

2003.12.09 22:07 URL | 幻泉館 主人 #79D/WHSg [ 編集 ]

★幻泉館 主人さん、いらっしゃいっ!

>おお、それはもしかしてTちゃん?

さいですねん。

>きっとああいう人がいい先生になるんだと思います。

いい先生になりすぎて、ち~とも出世しとらん。
“生涯一教師”ですな。

>いやあ、懐かしかぁ。

んです。あやつもご主人によろしゅうと言っておりましたぞ。
ご主人の下宿で新聞を切り抜かせてもらったと言っておった。覚えてる? ぼくは覚えておりません。


2003.12.09 22:15 URL | izumatsu #79D/WHSg [ 編集 ]













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